前回の続きの記事になります。
陸上自衛隊と歌について①
陸上自衛隊と歌についてご紹介します。
目次
隊歌コンクールについて
防衛大学校や陸上自衛隊の教育隊などでは隊歌コンクールがあります。
このコンクールは部外の方に見せるわけでは無く、
楽しい余興というわけでもありません。
そもそも誰が得するのかもよくわからない、
採点する側も音楽の素人でよくわからない、
学生達もそんなに盛り上がらないという特徴があります。
涙を流して感動するわけでもありませんし、「マジでやってよかった」ともあまりなりません。
言ってしまえば「誰がどこで得するのかわからない」というイベントですが、「隊員たちの団結を深める」などの題目もあるので、継続されている教育科目になっています。
隊歌コンクールには学校の合唱コンクールのように課題曲と自由曲があります。
指定曲は「学生歌」や「教育隊歌」などになりますが、自由曲が「自由曲が何がどこまで自由なのか」は教育隊によって異なります。自由度が高い教育隊の場合「J-POP」の替え歌でもOKとなり、よりカオスになります。
こうした教育隊では自由曲はウケ狙いで「ドラえもん」「サザエさん」の歌が選択されたり、妥当な線で米米CLUBの「浪漫飛行」となる場合もあります。
一方で自由曲が「軍歌」などに設定されているケースもあります。
この場合は圧倒的に一番人気が「抜刀隊(陸軍分列行進曲)」になるので、抜刀隊ジャンケンがもれなく開催されます。
陸上自衛官は力強い歌詞メロディから抜刀隊が大好きです。
「カラオケで歌ってよ」というと歌ってくれる可能性は高いのでやってみる価値はあるでしょう。
しかし、残念ながら抜刀隊をチョイスできなかった区隊は泣く泣く「歩兵の本領」や「橘中佐」を選択することになります。
なお「軍艦マーチ」も人気がありますが、海軍の歌なので選択できません。(同期の桜はギリセーフですが...)
また「麦と兵隊」「雪の進軍」にしようとの案もでます。
ただ、いずれも日本兵が兵隊生活と戦場の虚しさを嘆いた歌なので、「そんな歌を歌ったら、士気が下がるからダメ」と日本軍の検閲みたいな理由で採用できなかったりもします。
さらに戦争末期の曲は大抵はNGです。
「米本土空襲の歌」などの曲は歌詞がいきなり「何が正義だ 人道だ」と闇堕ちしており、歌詞の締めも「やるぞ ヤンキー大空襲」というヤケクソな歌詞なのでもちろんNGです。
うっかり同盟国の米軍に聞かれたら国際問題ですからね。
上半身裸になって腕立て伏せすれば加点
この隊歌コンクールを取り仕切るのは「隊歌係」になります。
隊歌係は学校の音楽係にあたる存在ですが、別に音楽科が取り仕切るわけではありません。
「武器・弾薬係」などの係に比べて「楽だから」という理由で、隊歌係に立候補する隊員も多いです。
そのため幹部候補生学校の部内課程では、音楽センスゼロの施設科ダンプカーの操縦手と、パワー自慢の重迫撃砲手から謎指導を貰いながら特訓する区隊もあるようです。
当然ながら、きちんと音楽科やラッパ手が指導する区隊には、歌唱力で水をあけられる事になるので、パワー自慢の区隊は芸術点狙いで上半身裸で腕立しながら歌うという奇策にでます。
この芸術点とはよくわからないのですが、いまだかつて芸術点で隊歌コンクールに勝った区隊を見たことがないので「歌が下手でもがんばったらちょっと点入れて上げるね」ぐらいの物だと思ってくれていいです。
もちろん音楽科やラッパ手が指導した区隊が勝つことも多いですが、そもそも審査委員長の大隊長が音楽のど素人なので、その採点が正しかったのか誰にもわからないようです。
この辺も思い出に残れば「ヨシっ!」なのです。
防大でも隊歌コンクールはある!
防衛大学校には各中隊の1学年を集めた隊歌コンクールがあります。
私が在学していた頃は10月ぐらいに設定をされており、休み時間の全てを軍歌に費やすことになります。
逍遥歌という防大特有の劇渋の歌もマスターすることになるので「もう一般大学に戻れない」と思いながらカセットテープに軍歌を入れて覚えることになります。
ただでさえ、時間のない中で軍歌の練習をするのは苦痛ですが、上下関係の厳しい当時の防大で口パクをすると、攻撃を受けたロックマンみたいになるので全力で歌うしかありません。
ちなみに当時は隊歌コンクールに優勝をすると、「上級生が優しくなる」「学生舎生活が緩和される」などの特典があったので、指導が厳しい中隊は死ぬ気で歌っていました。
昔の防大は男塾なのでそのぐらいの勢いが必要です。
やっぱり歌は魂から歌わないとダメですね。
つづく!
「陸上自衛隊ますらお日記」はこういう話ばかりなので、
気になる方は書籍もどうぞ!