今回は規模が大きく漠然としている陸上自衛隊の仕事を、まずは「職種」のくくりから見ていきたいと思います。
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陸上自衛隊のお仕事紹介
職種について
職種とは組織の中で与えられた専門領域のことを指します。
たとえば戦車なら「機甲科」、対化学兵器なら「化学科」、音楽演奏なら「音楽科」などに分かれているのです。音楽科が戦車に乗ることはありません。
ただ勘違いしがちなのが、化学科の隊員も装甲車を運転しますし、機甲科の隊員が除染作業をすることはあります。専門でなくても「できるところはやる」が基本スタイルになります。
決して「うちら音楽科やけん。個人用掩体の作成は施設科さんにお願いします。皆さんの元気が出るように私たちはラッパ吹きますね」とはならないのです。
それでは職種について紹介をしていこうと思いますが、あえて普通科を最初に紹介をするのは控えます。
理由は普通科は「The自衛隊」という職種である一方で、業務や任務の範囲が広いからです。各連隊に与えられた任務も違いますし、編成もバラバラなため、最初に説明するには逆に難しいのです。
また普通科は他の職種に比べて圧倒的な自己完結能力を持っています。
連隊の中に施設・重迫・衛生・対戦などの小隊もあります。
1個連隊だけで「ある程度のミッションなら、他の職種に頼らなくてもできちゃうよ」という職種なので紹介が難しいのです。
そんなわけで、逆説的に個性があってイメージしやすい職種という事で施設科を紹介させていただきます。
施設科は職人集団
施設科の話をする上で大切になるのは、施設科は「職人の世界」ということです。
普通科などの部隊と比べ「個人の持つ技術力」が圧倒的に評価されます。
理由は施設科は「築城」という防御陣地の作成が大きな任務の1つになっているからです。
施設科は自分の部隊の陣地だけでなく、師団司令部や普通科連隊などの陣地も作ることも多いです。作業時には重機を使うこともありますが、この際にオペレーターの技量が非常に大切になってきます。
師団司令部の防御陣地の作成時に、ベテラン作業班が現れると1日以上かかるはずの作業が半日で終わったりします。予定より早く工程が終わると、司令部の幕僚たち安堵の顔でニコニコします。
しかし新米の作業班が現れると、1日で終わる作業が、2日目になってもなかなか終わらず、司令部の幕僚は胃がキリキリします。
陸上自衛隊は人一人が作業すれば、このぐらい作業をできるという見積もりがあります。一方で重機を使う作業班クレーンなどを扱う人の技量によって、工程完了時間が大きくずれ込んだりします。まさに職人の世界なのです。
部隊によっては階級よりも技術力が物言う世界でもあります。
逆に施設科に支援を貰う立場からするとできるだけベテランの腕の良いオペレーターが来てほしいと思います。
そうした理由から支援を受ける部隊は調整の打ち合わせなどで「次の築城支援の際は、山田1曹(大御所)と大原1曹(大御所)の支援をお願いします」といった細かい要望も出すことがあります。
しかし「いやー、うちも若手のオペレーターが育たなくて困んですー。今回も、城間3曹(不器用)と古村士長(新人)でお願いします~」という施設科からの返答もあり、すったもんだすることもあります。
また施設科の幹部としても部隊の陸曹から「俺ばっかり支援に行かせるな!若手を育てろ!」や「あいつとは仕事をしたくねぇ!」などの意見をパンチパーマスタイルの陸曹から言われることもあります。そういった理由から大御所ペアがくることを期待すると裏切られることも多いです。
こういったガチャ的な要素がある施設科の築城支援ですが、彼らの重機オペレーターとしての技術力はPKOなどの国際貢献活動で「素晴らしい日本の技術力」として評価されています。
世界各国の軍隊で「工兵」はエリート集団と海外で見られていますが、それに恥じない実力がある日本の施設科はかなりの技術力を持っています。
重機オペレーター以外にも施設科は建築士がいるため、駐屯地内の倉庫や公衆トイレなどを作っていたりします。目に見える形で貢献することが多い職種と言えるでしょう。
つづく
次回も施設科を紹介していきます。
「陸上自衛隊ますらお日記」はこういう話ばかりなので、
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