今回は通信科について詳しく紹介をしていきます。
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陸上自衛隊のお仕事紹介
目次
通信科は「ハイテク」な職種だ!
通信科は平時では部隊の通信が円滑を行えるように調整することがメインの職種です。
最近では電波傍受やサイバー戦なども担当としており、陸上自衛隊が誇るハイテク部隊です。
民間企業でいえば「電話回線」「衛星通信」「ネットワーク」「サーバ」「暗号」「ホワイトハッカー」などを担当している職種であり、陸上自衛隊におけるNTTグループみたいなもんだと思っておくといいでしょう。対応業務も幅広いのでクーラーが効いた事務室でインテリメガネばかりがいる部隊や、砲弾飛び交う戦場で野戦通信を担当するバリバリの武闘派揃いの部隊まであります。
一方で、普通科や機甲科などの戦闘職種と比較するとメディアに登場することは少なく、担当業務もマニアックな部分が多いので皆さんにはなじみのない職種かもしれません。
しかし通信科は後方支援職種の中では最大勢力であり、通信科なしでは陸上自衛隊は全く機能発揮できない重要な役割を担ってます。
基地システム通信系にいる隊員について
自衛隊の電話は機密を守るためにも内線制度になっています。
イメージとしては会社の内線電話が全国の事務所に繋がっているものだと思って下さい。大手企業で例えるのであれば礼文営業所から与那国営業所まで内線だけで通話ができます。この内線は陸上自衛隊のみならず、航空自衛隊や海上自衛隊とも繋がっています。この内線で全国の陸海空自衛官と「もしもし」と色んな調整を行っているわけです。PCでの通信も内部用インターネットの回線が用意されているため、一般の方が思う以上に自衛官の仕事は電話とメールを使用します。
この内線を管理しているのは通信科であり「基地システム通信系」と言われる隊員たちが主に担当しています。平常業務に必要な電話回線やサーバーなどの保守・運用をするために駐屯地には「基地通信隊」があります。基地通信隊に行くとちょっとオタクっぽい印象がある隊員が働いていることが多いです。
彼らは24時間体制で駐屯地の通信保守・管理を行うのがメイン業務なので、ちょっとオタクだったりナードな感じの隊員が多めだったりします。メディアに登場する「強面のレンジャー隊員」と比較するとナヨっとした印象を受けることもあると思います。ただ「レンジャーだから偉い」や「オタクっぽいからダメ」という話ではありません。組織に必要な業務を果たすことが大切だからです。
一方で彼らは週末はみなでモンスターハンターするか、ゲームセンターでワンピースのフィギュアをゲットするか、コンカフェに行って「オホホ」と言っている隊員も多いのが特徴です。防衛省の広報もわざと基地通信隊をインタビューして「空いた時間はゲームし放題」とオタク全開なPRも行いますが、現職は「基地通信隊の営内を映すのはずるいだろ...」とボヤいていました。隊員募集の巧みなプロパガンダとしても利用される部隊です。
そうした姿を見て、演習だらけの普通科の若手隊員が「生まれ変わったら基地通信隊に行きたい」と言うこともありますが、彼らは原則として24時間勤務であり、トラブル対応など大変なことも多いです。世の中はそんなものです。
また、このオタク系の隊員には「伝説の通信陸曹」と呼ばれる人たちも一部存在します。
東日本大震災の際に基地通信が壊滅したことがあったそうです。そこで彼らが僅かに生き残ってる回線を見つけ「古い電話で疑似回線を作って通信を可能にしたと」いうちょっと理解できない逸話があったりします。オタク系隊員の技術力が皆さんの目の付かないところで、国民の命を護っているのは紛れもない事実なのです。
野外通信はますらお部隊
基地通信がオタク系だとすると野外通信は「ガチムチ系の職人さん」が多いです。
野外通信系は部隊として規模が大きいので、銃剣道や格闘などに非常に力を入れていることも多いです。「打倒普通科!チェエエスト!!」ぐらいの勢いで格闘練成を行うこともあり、格闘マニアも割と多い印象です。
昭和の自衛隊は不良の中でも腕っぷしが強くて、比較的頭の良かった人たちが野外通信系統に配属になっていた経緯もあり、ベテラン陸曹は電気設備工事屋さんみたいな印象がある方が多かったです。
とあるベテラン通信陸曹の若い頃は格闘練成に明け暮れるなか「回路図」「暗号」などの勉強もすることになり「高専の空手部」みたいな日々を過ごしたと語っていました。いずれにしても勉強に苦手意識がある人では通信科隊員としてやっていくのは難しいでしょう。
野外通信を担当する部隊が演習場に行くと、師団・旅団の通信網をあらゆる手段を使って構成します。通信手段として無線もあれば、有線も衛星通信もなんでもあるといった感じです。器材がありすぎて、通信器材が違うと同じ部隊でも「何してるかよくわからない」という話まで聞きます。このような「隣の陸曹が操作している器材が謎」という現象は専門性が高い部隊は往々としてなりやすい現象です。なお他職種隊員だと「アンテナついている通信科の車」ぐらいしかわかりません。私はそのぐらいの認識です。
また野外通信はただ通信設備を整えるだけではなく、通信に使う車両を半地下などにして埋めたりします。この作業はエンピ(シャベル)片手にひたすら掘りすすめることもあります。
さらに有線を構成する際は、敵に見つからないようにしなければならないので有線を埋設します。この埋設が甘いと敵の斥候が有線を切ったり、味方の車両通過で断線します。インテリ部隊ではありますが根性と体力が必要なのが陸上自衛隊の通信職種と言えるでしょう(野外活動が少ない空自・海自はここまでやらないと思います)
ただ戦闘職種も交えて行う大規模な演習になると、通信科は他の部隊よりも一足先に作業を終えて通信車両や指揮所で「通信の維持運営」をしている事が良くあります。
これを見て、普通科の隊員の中には「あいつらはクーラーの効いたシェルター車の中にいてズルい!」と思う隊員もいたようですが、そんなことはなく演習の最初と最後にタップリ汗を書くのが通信科なのです。展開と撤収にかなりの工数がかかるのが通信職種だからです。
なお昭和の時代に他職種の隊員が「通信科なんて、通信繋げばあとは何もしなくていいだろ?」みたいな軽口を叩こうものなら「通信科を馬鹿にすんじゃねえ!」と殴り合いの喧嘩になることもあったそうです。
現在は陸上自衛隊の使う器材は殆どがデジタルですが、一昔前の器材は数億円するアナログなものがありました。そのようなアナログ通信機材は接触が悪いと「通信が繋がらない」ということがよくあったので、数億円の器材に斜め45度から空手チョップする度胸のある隊員もいたと聞いたことがあります。いろいろメチャクチャですが、昭和の陸自なんてそんなもんだと思っていてください。
野外通信系の職種も女性がおおいですが、気合の入った元レディースみたいな隊員も多く、こちらも戦闘力が高めです。
いまの野外通信系の若手隊員は若手肉体派Youtuber系のような感じなので「知性とマッチョが両立した男性が好き!」という方は通信科隊員にアプローチするといいのではないでしょうか。
つづく
次回も通信科を紹介していきます。
「陸上自衛隊ますらお日記」はこういう話ばかりなので、
気になる方は書籍もどうぞ!
今回もとても興味深く読ませていただきました。いつもありがとうございます!
3年前に亡くなった祖父が旧陸軍の通信兵で、戦後数十年たってもモールス信号を覚えていて、覚え方まで話していたそうです。祖父の青春の思い出なのですね。
地元の自衛艦の来艦イベントに祖父と一緒に行き、モールス信号を解読してくれたのは良い思い出…。